Why we are against S.P.L. ?

特定秘密保護法の問題点について。

【特定秘密保護法の問題点に関する共通認識】ver3.0

 

[前書き]

 

 民主主義国家において主権者である国民が主権を行使していくためには、知的資源である情報が不可欠であり、そのため国民には知る権利が保障されています。基本的には国家の情報は全国民のものです。その上で、国や国民(また時として他国の市民)の安全を守るためには、一部の情報を国民から政府へ委託し非公開にしなければならならないという見方があり、この二つ―「知る権利」と安全保障上の秘密指定の必要―は緊張関係にあると言えます。この緊張関係の存在を前提とした上で、私たちは特定秘密保護法に対し以下の問題点を指摘します。

 

 ①法成立までのプロセスに問題があったこと

 ②情報の非公開の範囲が恣意的に広げられる可能性があること

  (a)秘密指定の範囲があいまいであること

  (b)法運用に対するチェック機能が成り立たない可能性があること

 ③三権分立の否定であること

 ④「知る権利」を侵害する可能性があること

 ⑤適正評価制度によるプライバシーの侵害および職業選択の自由の侵害の可能性

 (補足1 国際原則であるツワネ原則に大きく反していること)

 (補足2 スパイ防止に対する実用性への疑問)

 

※本ページで出てくる用語等についてはQ&Aを参照してください。

 

 

 

1、法成立までのプロセスの問題

 

 本法は、野党の強い反対がある中で非常に短い審議時間で採決されました。衆議院では審議が11月7日に開始され、11月26日に衆議院で、12月6日に参議院で強行採決によって成立しました。衆参の委員会に法案が提出され成立するまでの一般的な審議時間と比較すると、本法の成立期間が非常に短かった事が分かります[1]。このことから、本法は議会において慎重な審議が行われないまま多数決によって決定されたと言えます。

 また2013年の9月の段階で行われたパブリックコメント[2]においては77%が反対意見でしたが、国会審議ではそのような意見に答えるだけの議論が行われませんでした。更に、法の施行に向けて、2014年の7月24日~8月24日にかけて特定秘密保護法に関する三つのパブリックコメントが集められました。ここでは、約二万三千件のパブリックコメントが寄せられ、その過半数が本法及び基準案への批判的な意見でした。しかし一部修正されたのは基準案のみであり、その修正もパブリックコメントの内容をうけた抜本的なものとは言えません。

現在の日本の議会政治において確かに多数決は最終的な決定方法ですが、それが民主主義の政治過程である以上、その決定に至るまでには、議席によって代表されにくい市民の意見を、様々な回路を通じて極力組み込みつつ熟議を行うことが重要です。しかし本法の成立過程においては、国民の代表者が集う議会での議論が重視されたとは言えず、かつ国民の意見を積極的に取り入れているとも言えません。これらのことから、本法の成立過程からは議会制民主主義の形骸化をもたらす可能性が指摘されます。

 

 

 

2、情報の非公開の範囲が恣意的に広げられる可能性

  

 本法が恣意的に利用されると考えられる原因は大きく分けて二つあります。一つは秘密指定の範囲が曖昧であること、もう一つは秘密指定に対し客観的にチェックをする機能が実質的に不在しているということです。これらのことによって、法を扱う人たち(官僚や大臣)がむやみに秘密指定の範囲を広げることが可能になります。秘密指定の範囲の拡大を防ぐには、法運用のための厳しい基準とチェック機能の両方が必要不可欠であり、それらを欠く本法の成立は「国民による統治」という民主主義の理念と根本的に矛盾する方向性を持っていると考えられます。以下は具体的な問題点の指摘です。

 

2-a、秘密指定の範囲があいまいであることに関して

 

 自民党案では当初、①防衛に関する情報、②外交に関する情報、③特定有害活動の防止に関する情報、④テロリズム防止に関する情報、これら四点に関わる情報の秘密指定を行うと法案に明記していました。これに対し与党である公明党が秘密指定の範囲が広範囲になる可能性を指摘したため、別表をつけるという形で以上の四つの分野をそれぞれ4~10項目に分け詳細に範囲の規定が行われました。

しかし、これでも十分なものとは言えません。この点に関して秘密指定の範囲は記されていますが、秘密指定の範囲をいくら詳細に決めても抜け道は作り出すことができるからです。実際、のちに加えられた公明党の別表にも「その他」という文言が多く組み込まれるなど、秘密の範囲が無限に広がる余地を残しています。加えて、秘密にできない事項を法律に明記していないことも秘密の範囲が広げられると考えられる原因の一つとしてあげることができます。

 

2-b、チェック機能の不在に関して

 

 法律を厳格にするだけでは、法の恣意的な乱用は防げません。それを防ぐにはその法がどのように使用されているのかを、行政から独立して監視するための仕組みがなければなりません。

本法を運用していくに当たり、どのような情報が秘密にされているのか、また過去に秘密にされてきたのかを監視するための機関が設置されます。 具体的には①有識者の機関で秘密指定や解除の統一基準を検討する「情報保全諮問会議」(法第18条、第19条)、②内閣内には、特定秘密の指定の範囲や解除を直接チェックする「情報保全監察室」(法 付則第9条)、③特定秘密の要約を受け、特定秘密の指定や管理が適正かどうかチェックする「独立公文書管理官」(法 第4条)、④その下にある「情報保全観察室」、⑤国会内には、秘密の指定・解除件数等の報告を受け、適切に法が運用されているかどうか秘密会によって審査する「情報監視委員会」が常設されます。

しかし、秘密の中身に直接介入できるのは②内閣内の「情報保全観察室」だけとなっており、秘密の指定も内閣内の府省庁が行っているため、これらのチェック機関は完全に独立した第三者機関とは言えません。つまり、法の恣意的な乱用を防ぐための仕組みが確立していないということです。

 

3、三権分立の否定の可能性があること

 

 第三者機関の不在の問題の箇所でも記述しましたが、秘密の指定から点検・処理まですべて内閣内の機関で行われ、立法府や司法が直接介入できなくなっています。ここでは、内閣に情報に関する権力が集中し、他の機関(立法機関、司法機関)が介入できなくなっています。これは三権分立の原則に反しています。

三権分立とは、権力機関を3つ―司法、立法、行政―に分けて互いに監視・抑制しあうことにより、国民の自由や権利を守ることを目的としたものです。このように権力を分立するのは、権力が(一つの機関に)集中した場合、その権力が恣意的に利用され、国民の自由や権利が脅かされてしまう危険があり、歴史的にその危険が現実のものとなったことがあるからです。例えば、ナチスが行った「全権委任法」は立法府(議会)が立法権などの権利を行政府に集中しましたが。その結果、制御が効かなくなったナチスドイツは多くのユダヤ人をはじめとする国民の弾圧を行い、ワイマール憲法は意味を成さないものになりました。この有名な事例は、「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する[3]」という格言を悪い意味で具現化したものと考えられます。三権分立の原則はこのような歴史上の文脈の上に位置付けられており、これを否定することは、人類が築き上げてきた自由と権利の理念を否定することと同義と言っても過言ではありません。

行政に権力の集中を認める本法は三権分立の原則を無視したもので、国民の権利や自由が侵害されてしまいかねません。国民の自由に深く関わってくるであろう本法において求められるのは、権力の分散とその保障です。

  

4、知る権利の侵害に当たる可能性

 

 具体的に制約される権利に「知る権利」を挙げることができます。秘密指定の範囲が必要以上に広げられてしまえば、当然、国民の得ることができる情報の幅は狭められ、国民の知る権利は侵害されている状態になります。

国民はさまざまな情報を得ることで有効な政治参加が可能になります。例えば選挙の時、その時点で政府が何をしているのか正しい情報が得られなければ正確に判断して投票することは出来ません。また、国民の代表である国会議員は法律を作ったり予算を決めたりする際、正確な情報が無ければまともな審議を行うことが出来ません。更に、国民が自ら政治的判断を行うための情報に触れようと考えた際に、本法の刑罰規定によって政治参加そのものに対し萎縮してしまいかねないことが問題点として指摘できます。

特定秘密保護法による知る権利の侵害は、国民の政治的主体性を奪いかねないという意味で、人々の積極的な参加を抑制しかねないものであると考えられます。このことは、国民=主権者という民主主義の基本的な構図を否定するものであると言えます。

 なお学生の立場として、ここに「学問の自由」が脅かされる可能性を指摘します。学問の自由には、真理の発見・探究を目的とする研究の自由が含まれています。しかし、特定秘密保護法は真理を発見するための多くの情報を無作為に非公開にし、更にはその情報にアクセスしようとすること自体が犯罪にあたる可能性があります。そのため、学問に従事すべき学生の知的可能性を損なうことになりかねません。

 

5、適正評価制度によるプライバシーの侵害および職業選択の自由の侵害の可能性

 

  本法では第12条~17条にかけて適正評価制度について定められています。適正評価制度とは特定秘密を取り扱う人(主に公務員)に対しその人の「評価」を行う制度の事ですが、その評価項目には、家族構成、薬物の乱用状況に関する事項、犯罪歴に関する事項、精神疾患に関する事項、飲酒についての節度に関する事項、経済状況に関する事項等が含まれています(法12条2項)。これらの調査はプライバシーの侵害にあたることが多くの識者から指摘されています[4]。

自民党は、適正評価は任意で行われるため強制ではないと主張していますが、評価の対象者が適正評価を拒否した場合、解雇や処罰が行われないという保証はありません[5]。

また、公務員でない人も特定秘密を取り扱う可能性があるにも関わらず、本法では公務員と民間人を分けた規定はありません。つまり、秘密を取り扱う非公務員も適正評価を受けなければならないということです。例えば原発作業員については原子力発電の情報自体が特定秘密に該当する確立が高く、その場合、特定秘密を扱う作業に関わる人は必然的に適正評価を受けなければなりません。拒否した場合、その人は解雇や処罰を受ける可能性があります。これは原発作業員に限った話ではなく、軍事産業、原発産業に関わる大企業、電力会社等の多くの一般の企業に勤める一般市民にも該当する可能性があります。

これらのことは特に、卒業後に企業社会に進出するであろう多くの学生にとって重要な問題になると考えられます。なぜなら、「適正でない」と判断されたり適正評価を拒否したりすることによる解雇のリスクは、学生の「職業選択の自由」を侵害しかねないものとなるからです。

 

 

※補足① 国際原則であるツワネ原則に大きく反していること

  政府の主張は、情報を扱う上で「国際常識にかなうルール」がなかったため、それにかなうルール=本法を作ることで、国際的な信用を得ることができるというものでした。

「国際常識にかなうルール」にはさまざまなものが上げられると思いますが一つに「ツワネ原則」があります。この原則自体に法的拘束力はありませんが、一つの「国際常識にかなうルール」と言えることができます。

 ツワネ原則とは、70か国以上から500人を超える専門家が南アメリカのツワネに集い、2013年6月12日に作られた国際原則です。この原則は国家安全保障のための秘密保護と知る権利が常に対立することを前提にしており、ヨーロッパ人権裁判所やアメリカ合衆国など、知る権利と安全保障について真剣な議論が行われている地域の努力が反映されているものと言えます。

 具体的な例を挙げると、ツワネ原則(原則10)では秘密にしてはならないカテゴリーについて書かれています。また、情報を非公開にする正当性を説明する責任があること(原則4)についても書かれていますが、秘密保護法にはこれが明記されていません。

 また、監視機関に関してもツワネ原則においては安全保障部門には独立した監視機関が設けられるべきであり、この機関は全ての情報にアクセスできるべきだとしています(原則6など)。そして、秘密指定が妥当かどうか、これらの機関以外に属する人以外の市民が判断するためには必要最低限の期間での秘密指定の解除が必要です。ツワネ原則には秘密指定される期間は無期限であってはならず、最長期間を法律で定めるべきだと主張しています(原則16)。本法では②でも述べたようこれらに該当していません。

また、ツワネ原則だけでなく諸外国の秘密保護法と類似した役割を持つ法律も「国際常識にかなうルール」としてあげることが出来ますが、それらの法律とも本法の内容がかけ離れていると言えます。アメリカの大統領令13526号では秘密にしてはいけない条項を定めています(大統領令1,7条a項)が本法にはこのような規定はありません。このような規定がなければ官僚の汚職などが「国家の安全の為」に秘密指定される可能性も否定できません。

 政府は国際常識にかなう国家秘密を取り扱うためのルールが必要だと主張していますが、特定秘密保護法の内容とかけはなれた内容をもつツワネ原則もまた「国際常識」としての一つの地位を築いていると言えます。そして、国民主権・基本的人権の尊重・平和主義を基軸とする世界で最も先進的な憲法を持つ日本が参照すべき「常識」は、知る権利と安全保障の間の緊張関係をふまえつつ市民の自由の側に立つツワネ原則であると我々は考えます。

 

※補足② スパイ防止に対する実用性への疑問

 特定秘密保護法に対してスパイ防止法としての役割を果たすという見方がありますが、情報化社会の中での情報漏えいはサイバー攻撃によって起こる確率の方が非常に高いと考えられます。そのため情報源である公務員を中心として取り締まり、情報漏えいを防ぐために刑の厳罰化を行うことは効果があまりないと言えます。また、情報の漏えいに関しては特定秘密保護法成立以前からある、「公務員法」や「自衛隊法」などで十分漏えいに対する防止として働くのではないかという意見もあります。

 

 

(参考)

海渡雄一、前田哲男(2012)「なんのための秘密保全か―その本質と狙いを暴く」 岩波ブックレット

海渡雄一、清水勉、田島泰彦(2014)「秘密保護法何が問題か―検証と批判」岩波新書

 

毎日新聞「運用基準、骨格の修正なく 監視機関や機密解除」(2014/9/11)

朝日新聞「(どうする?秘密法)反対の声が歯止めに 奥平康弘さん」(2013/12/11)

http://www.asahi.com/articles/TKY201312100400.html

産経新聞「特定秘密保護法修正・廃止を82% 内閣支持10ポイント急落、共同通信世論調査」(2013/12/9)

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/131209/plc13120916500009-n1.htm

47News「【秘密保護法案】「世界の潮流に背く」ツワネ原則に注目集まる」(2013/1/29)

http://www.47news.jp/47topics/e/247811.php

 

The Jimin NEWS「特定秘密保護法―3つのポイント」(2013/12/24), 2014/10/20取得

https://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/141_1.pdf

 

あなたも「秘密保護法」にねらわれるQ&A 日本弁護士連合会

http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/himitsu_hozen_qa.pdf

 

特別秘密の保護に関する法律案【逐条解説】 内閣官房(2014/10/20)

http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/jyouhouhozen/dai2/sankou4.pdf

 

「特定秘密の保護に関するQ&A 内閣官房特定秘密保護法施行準備室」(2014/10/20)

http://www.oguchi.gr.jp/ogu/wp-content/uploads/2013/12/70af03a0872c0c7a97f5fb9ca7190139.pdf

 

 

 

 

[1]過去の「重要法案」といわれる法案の審議時間は、郵政民営化関連法(213時間38分)、改正教育基本法(190時間41分)、社会保障と税の一体改革関連法(214時間45分)と200時間前後でした。しかし、秘密保護法に置いては67時間48分と圧倒的な短さでした。

 

[2] パブリックコメントの通常募集期間は30日ですが、特定秘密保護法に関しては15日だけというものでした。

 

[3] "政治的腐敗", 日本大百科全書(ニッポニカ), JapanKnowledge, http://japanknowledge.com, (参照 2014-06-19)

 

[4] 日本弁護士連合会HP:「秘密保護法とは何か? ~その危険性と問題点~http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/committee/list/data/himitsuhogo_qa_140325.pdf (2014年6月19日)

 

[5] 2010年に検討された民主党案では拒否することで解雇など不利益な扱いを禁止する規定がありましたが、なぜか本法ではこの規定が削除されています